MATLABとは?できること・活かせる仕事・Simulinkとの違いを解説
MATLABは、MathWorks(マスワークス)が提供する、数値計算やデータ解析、アルゴリズム開発などを一つの環境で進められる技術計算プラットフォームです。
大学や研究機関だけでなく、自動車、電機、通信、ロボティクス、航空宇宙など、幅広い分野の研究・開発で利用されています。
一方、初めて名前を見た人にとっては、「一般的なプログラミング言語と何が違うのか」「何に使えるツールなのか」「身につけると、どのような仕事に活かせるのか」が分かりにくいかもしれません。
本記事では、MathWorksの公式情報をもとに、MATLABでできることやSimulinkとの違い、仕事での活用例、MathWorks認定資格などを紹介します。

MATLABとは
MathWorksが開発する技術計算プラットフォーム
MATLABは、米国のMathWorksが開発する、プログラミングと数値計算のための環境です。MathWorksは1984年に設立され、MATLABとSimulinkを中心としたエンジニア・科学者向けのソフトウェアを提供しています。
MathWorksはMATLABを、アルゴリズム開発、データ解析、可視化に使える「エンジニアや科学者のための言語」であり、プログラミングおよび数値計算環境であると説明しています。
つまり、MATLABは単なるプログラミング言語ではなく、コードを記述する機能に加え、データを操作する対話型アプリ、グラフによる可視化、工学・科学分野に対応した関数群などを一つの環境で利用できる点が特徴です。
MathWorksの公式サイトでは、500万人以上のユーザーと、10万を超える利用組織が示されています。MATLABとSimulinkは、研究段階の試作から製品・システムの開発や検証まで、用途に応じて活用されています。

数値やデータを扱う一連の作業をまとめて進められる
MATLABでは、データの読み込み、前処理、計算、可視化、アルゴリズムの実装、結果の共有までを同じ環境で進めることができます。

例えば、実験装置から取得したセンサーデータを読み込み、欠損値やノイズを処理し、計算結果をグラフにして傾向を確認するといった流れを一つの作業環境にまとめられます。
処理をスクリプトや関数として残せば、新しいデータに同じ解析を適用しやすくなり、手作業の削減や解析手順の再現にもつながります。
MATLAB本体には数値計算、プログラミング、データ処理、可視化などの基本機能があります。さらに、目的に応じてツールボックスなどのアドオン製品を組み合わせることで、統計・機械学習、信号処理、画像処理、制御設計、航空宇宙などの専門的な作業へ機能を広げられます。
ただし、すべての専門機能がMATLAB本体だけに含まれているわけではありません。業務で導入する際は、行いたい作業と必要な製品、利用できるライセンスを確認する必要があります。
MATLABでできること
MATLABの用途は、数値計算やグラフ作成だけではありません。ここでは、データ解析、アルゴリズム開発、自動化といった代表的な使い方を紹介します。
データの整理・解析・可視化
MATLABでは、数値配列だけでなく、表形式のデータ、時系列、テキスト、センサーから取得したデータなどを扱えます。欠損値や外れ値の確認、ノイズの処理、複数データの結合といった前処理にも対応しています。
解析結果は2次元・3次元のグラフなどで可視化でき、数値だけでは把握しにくい傾向や異常を確認し、検討結果をチーム内で共有する場面にも活用できます。
実験や試験のたびに同じ処理を行う場合は、作業をコード化することで解析の自動化が可能です。手順を残せるため、条件を変更した比較や、別の担当者による再確認もしやすくなります。
アルゴリズムやAIモデルの開発
MATLABは、計算方法やデータ処理の手順をアルゴリズムとして実装し、試行錯誤しながら改良する用途にも使われ、「信号処理、画像処理、制御、通信」など、数値計算を伴う分野でも利用されています。
対応する製品を組み合わせれば、機械学習やディープラーニングにも利用できます。学習用データの準備、モデルの構築、精度の評価だけでなく、開発したアルゴリズムをシステムに組み込む工程までつなげられる場合があります。
解析作業の自動化やアプリの作成
繰り返し行う計算やレポート作成をスクリプト化すれば、定型業務の効率化につながります。コード、計算結果、グラフ、説明文を一つにまとめられるライブスクリプトは、解析の記録や技術資料の作成にも利用できます。
また、App Designerを使って、解析機能を操作するための画面を備えたアプリを作ることも可能です。MATLABのコードを直接扱わない担当者に、社内用の解析ツールとして提供するといった使い方が考えられます。
MATLABはPython、C、C++などの言語とも連携できます。すでに社内で使われているソフトウェアやコードをすべて置き換えるのではなく、解析やアルゴリズム開発を担う環境として既存の開発工程に組み込むこともできます。
Simulinkとは?MATLABとの違い
MATLABとSimulinkは連携して利用されることが多いものの、それぞれ役割や得意とする作業が異なります。
ここでは、SimulinkでできることやMATLABとの違いを紹介します。
Simulinkでできること
Simulinkは、ブロック線図を使って動的システムをモデル化し、シミュレーションするための環境です。MATLABと連携して利用されますが、MATLABの別名や単なるグラフ作成機能ではありません。
モーター、車両、ロボット、通信機器、宇宙機など、時間とともに状態が変化するシステムをブロックの組み合わせで表現し、実機を作る前に動作を確認できます。制御ロジックを変更した場合の影響や、複数の部品が連動したときの挙動を、モデル上で比較・検証できる点が特徴です。

Simulinkは、構想、設計、実装、テストなどの工程でモデルを継続的に活用する「モデルベースデザイン」に用いられ、関連製品を組み合わせることで、モデルから組み込み用コードを生成したり、ソフトウェアや実機を接続したテストへ進めたりすることも可能です。
ただし、シミュレーションを行えば実機試験が不要になるわけではありません。モデル上で問題を早期に見つけ、実機を使う段階の手戻りやリスクを抑えるための手段として捉える必要があります。
MATLABとSimulinkの使い分け
MATLABとSimulinkの主な違いは、扱う対象と作業方法にあります。

例えば、人工衛星の姿勢制御を検討する場合、MATLABでセンサーデータの解析や制御パラメーターの調整を行い、Simulinkで衛星の動きと制御ロジックを組み合わせてシミュレーションするといった使い分けができます。
どちらか一方が上位という関係ではなく、数値・データを扱うMATLABと、システムの動きをモデルで扱うSimulinkを、目的に応じて連携させる関係です。
MATLAB・Simulinkの習熟度を示すMathWorks認定資格
MathWorksは、MATLABとSimulinkの習熟度を一定の基準に沿って示す認定プログラムを設けています。2026年9月時点で公式サイトに掲載されている認定は、以下の3つです。
いずれもMathWorksが実施する民間のベンダー認定で、国家資格ではありません。

MATLABの基礎力を示すCertified MATLAB Associate
Certified MATLAB Associateは、MATLABのアソシエイトレベルの習熟度を示す認定資格です。試験では、MATLABの基本操作、データの読み込み、ベクトルや行列の操作、グラフ作成、条件分岐や繰り返し処理、関数作成などが問われます。
基本的なデータ処理や可視化、スクリプト作成を仕事に活かしたい人にとって、学習の到達点の一つになります。
特に、これからMATLABを使う研究・開発職を目指す人や、実務で使い始めた人が基本事項の理解度を確認する機会として検討しやすい認定です。

MATLABの高度な習熟度を示すCertified MATLAB Professional
Certified MATLAB Professionalは、MATLABのアドバンストレベルの習熟度を示す認定資格です。受験申請には、Certified MATLAB Associateの合格が必要です。
試験範囲には、複雑なデータの読み込みや前処理、高度な可視化、効率的で堅牢なプログラムの作成、デバッグ、自動テスト、カスタムToolboxの作成、App Designerを使った対話型アプリの開発などが含まれます。
多肢選択問題だけでなく、MATLABコードを作成する実技問題も出題されます。
すでにMATLABを業務で使い、個人の解析作業にとどまらず、再利用できる関数や社内向けの解析アプリ、チームで保守するコードの開発まで担いたい人に向く認定です。

SimulinkにはCertified Simulink Associate
制御システムや組み込みシステムのモデルベース開発に携わる人には、Certified Simulink Associateも選択肢です。
試験では、ブロックを使ったモデルの構築、連続・離散システム、サンプル時間、ソルバー、サブシステム、シミュレーションデータなど、Simulinkに固有の知識が問われます。
Certified MATLAB Professionalは高度なMATLABスキルを示す資格であり、Simulinkの習熟度を対象とする認定ではありません。データ解析やアプリ開発を中心にするのか、制御・シミュレーションを中心にするのかを考え、担当業務に合う認定を選ぶことが大切です。
資格取得そのものをゴールにするのではなく、基本操作を学び、実際の課題で使い、足りない知識を補ったうえで認定を取得する流れにすると、認定資格と実際に使った経験を結びつけやすくなります。

MATLAB・Simulinkを学ぶ方法
まずは基本操作を体験する
初めて学ぶ場合は、いきなり多くの関数を暗記するよりも、データを読み込み、計算し、グラフを作る一連の流れを体験すると理解しやすくなります。
MathWorksは、自己学習形式のオンラインコースとして「MATLAB 入門」や「Simulink 入門」などを提供しています。ブラウザーから利用できるMATLAB Onlineや無料評価版も用意されているため、利用条件を確認したうえで学習環境を選べます。
実際の課題や成果物に結びつける
基本操作を覚えた後は、自分が目指す仕事に近いデータやモデルを扱うことが大切です。
例えば、データ解析を目指すなら公開データを使った前処理と可視化、制御分野を目指すなら簡単な制御対象のモデル化、宇宙分野を目指すなら軌道やセンサーデータに関する例題などに取り組む方法があります。
操作方法を知っているだけでなく、「どのような課題に対し、何を作り、どのように検証したか」を説明できるようにすると、学んだスキルを仕事との関連で示しやすくなります。
MATLAB・Simulinkを活かせる仕事
MATLABとSimulinkは、特定の一職種だけで使われるツールではなく、データの解析からシステム設計、テストまで、担当する工程によって使い方が変わります。

データ解析や研究開発に関わる仕事
1つ目は、データ解析や研究開発に関わる仕事です。
代表的な職種は、研究開発エンジニア、データ解析エンジニア、アルゴリズム開発エンジニア、信号・画像処理エンジニアなどで、実験や製品から得られたデータを整理し、傾向や異常を確認するためにMATLABを活用できます。
単発のグラフ作成だけでなく、解析条件を変えて何度も比較する、定期的に追加されるデータへ同じ処理を適用する、結果を共有できる形にまとめるといった作業で強みを発揮します。
制御や組み込みシステムを開発する仕事
2つ目は、制御や組み込みシステムを開発する仕事です。
代表的な職種は、制御設計エンジニア、組み込みソフトウェアエンジニア、モデルベース開発(MBD)エンジニア、ロボット制御エンジニアなどで、機器を狙いどおりに動かすためのアルゴリズムや制御ロジックを設計します。
自動車、産業機械、ロボット、航空機、宇宙機など、実機の試作やテストに大きなコストがかかる分野では、事前のシミュレーションが重要です。
これらをMATLABで計算やパラメーター調整を行い、Simulinkで制御対象と制御ロジックをモデル化することで、設計案を比較しながら検証できます。
テスト・計測や品質検証に関わる仕事
3つ目は、テスト・計測や品質検証に関わる仕事です。
代表的な職種は、実験・評価エンジニア、テスト・検証エンジニア、計測エンジニア、品質評価エンジニアなどで、センサーや計測機器から得たデータの収集、解析、可視化、レポート作成などにMATLABを利用できます。
試験項目が多い場合には、データ処理や判定を自動化することで、作業時間の短縮や確認方法の統一につなげられます。
SimulinkとSimulink Testなどの関連製品では、モデルやコードに対するテストを実行し、システムとして意図した動作になっているかを確認できます。製品や業界によって求められる検証方法は異なるため、ツールの操作だけでなく、品質基準や開発プロセスへの理解も必要です。
MATLAB・Simulinkは宇宙分野でも活用されている
人工衛星や宇宙機は、打ち上げた後に簡単に修理できないため、設計段階でさまざまな条件を想定して検証することが重要です。
ここでは、MATLAB・Simulinkの宇宙分野における活用方法を紹介します。
軌道・ミッション・衛星データの解析
航空・宇宙分野は、MATLABとSimulinkの活用領域の一つです。MathWorksの宇宙システム向け公式ページでは、軌道やミッションの解析、宇宙機のテレメトリやペイロードデータの解析、システムレベルのモンテカルロシミュレーションなどが用途として挙げられています。
人工衛星と地上局の間で見通しが確保される時間帯を求めるアクセス解析や、通信条件を評価するリンク解析、ミッション中の電力需要の評価など、複数の領域に利用できます。
こうした専門的な作業では、MATLABやSimulinkに加え、Aerospace Toolbox、Aerospace Blockset、Satellite Communications Toolboxなど、目的に応じた他製品が使われます。
GNCや飛行ソフトウェアの開発・検証
ロケットや人工衛星の開発では、機体を目的地へ導き、現在位置や姿勢を把握し、安定して制御するGNC(誘導・航法・制御)が重要です。MATLABとSimulinkは、GNCアルゴリズムの設計、宇宙機モデルを使ったシミュレーション、などに活用されています。
MathWorksは公式事例として、Lockheed MartinによるIRIS衛星のGN&Cシステム開発や、ESAとAirbusによるロケット上段の姿勢制御開発を紹介しています。
また、NASAのParker Solar Probeでは、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所のGNCチームがSimulinkを用いて姿勢制御アルゴリズムの設計・実装・検証を行った事例も掲載されています。
これらは、MATLABとSimulinkが単に研究データを整理するだけでなく、ハードウェアとソフトウェアが連動する宇宙システムの設計・検証にも使われていることを示す例です。

まとめ
MATLABとSimulinkの特徴は、個別の計算やシミュレーションができることだけではありません。データ、アルゴリズム、モデル、テストをつなぎ、検討した内容を繰り返し確認できる形で残せる点にあります。
そのため、学習を始める際は「MATLABを使えるようになること」だけを目標にするのではなく、自分が関わりたい仕事のどの工程で使うのかを考えることが重要です。データ解析ならMATLAB、制御やシステムシミュレーションならSimulinkというように、まずは必要な領域を絞ると学習内容を決めやすくなります。
実際のデータやモデルを扱った経験にMathWorks認定資格を組み合わせれば、習得した内容を自分の中だけにとどめず、一定の基準に沿ったスキルとして説明しやすくなります。
MATLABやSimulinkが使われる職種を目指す人は、求人や業務内容を確認したうえで、実務につながる課題と認定レベルを選んでみてください。
